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上告理由書

 前知事退職金訴訟の上告理由書を青島弁護士が書いて提出してくれた。いささか長くなるが、(「第1 事案の概要」は省略して)その全文を以下に載せる。
  もちろん、中心は「第3 上告受理申立理由」にある。   
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第2 原判決の要旨
  原判決は,以下のように,申立人らの主張を排斥し,本件条例15条中の知事の退職手当額に関する部分が法204条3項に違反するものということはできず,他の給与条例主義を定める法の規定に違反するということもできないとした。

1 本件条例15条の法204条3項違反の点
  申立人らは,本件条例15条が法204条3項及び204条の2の規定に違反すると主張した。
  これに対し原判決は,法204条及び204条の2は,あいまって,給与条例主義を定めており,その趣旨は,①住民の代表である議会の条例制定を通じて,給与体系を公明化し,給与等の額等を民主的にコントロールするとともに,②勤労者である職員に対し,勤労者の団体行動権の一部を制限する代償として給与等を権利として保障することにあると解し,本件条例は,条例から特別職に対する退職手当の額を確定できないので法204条3項の文言に適合しない面があることは否定できないが,特別職に対する退職手当の額の決定方法を明示しており,議会が条例を制定する場合と議決事項とした場合の議決方法には特段の相違がないことを考慮すると,両者は実質的には等しいということができ,上記給与条例主義の趣旨①をみたし,趣旨②はそもそも知事には当てはまらないから,本件条例15条が,知事の退職手当の額を直接定めることなく,議会の議決により定めることができるとする部分は,法204条3項に反するものとは解されないとする。
 
2 住民による民主的統制に関する差違について
  また,原判決は,申立人らの,住民による民主的統制の観点からの主張に対して次のように判断して理由がないと排斥した。
(1)条例改廃請求権による内容修正の可能性について
  申立人らは,法204条3項及び204条の2の規定の趣旨は,義会による民主的統制のみではなく,条例改廃請求権の行使等による住民の自治体に対する民主的統制の可能性を確保するところにもあるとして,本件条例15条は,法204条3項及び204条の2の規定の趣旨に反する旨主張した。
  これに対して原判決は,条例による場合は,公布されて退職手当の額が住民に了知され得る状態に置かれ,住民の条例改廃請求(法74条)により,その内容を修正する余地があるのに対し,議会の議決による場合には,議案提出前の段階では議案の内容たる退職手当の額を住民が了知することはできないとしながら,議員は住民の選挙により選出された住民の代表者であるから,民主的なコントロールのもとで退職手当の額を決定しているものといえるので,この差異をもって,条例により定める場合の方が,より民主的なコントロールが及ぶものとまではいいきれないから,このような相違をもって,本件条例15条が前記給与条例主義の趣旨①を没却するものということはできない(6頁12行目以下),仮に,住民の条例改廃請求権の行使等を重視するとしても,住民は,議会の議決する額とすることができるという本件条例に対しても,条例改廃請求を行うなどしてその意思を反映させることができたから,申立人らの主張は理由がないとする。
(2)選挙の争点化による内容修正の可能性について
  また,申立人らは,条例によれば,場合によっては議員選挙の争点となって選挙結果に基づき議会によって内容の修正が行われる可能性があるが,議決によればこのような可能性はないという点に差異があり,住民によるコントロールの観点からはこの差違は重要であるから,法が各種の直接民主主義的な制度を規定している趣旨を考慮すれば,議会の議決と条例とを同視することは,法204条3項及び204条の2の規定の趣旨に反するとともに,地方自治の本旨(憲法92条)にも反する旨主張した。
  これに対して原判決は,①住民は本件条例に対しても条例改廃請求を行うなどしてその意思を反映させることができた,また,②議決による場合には,議案が議会に提出される前の段階でその議案の内容(退職手当の額)を住民が了知することはできないが,一方,個々の退職手当の支給ごとに金額を議会で議決することは,予め条例で定められた金額が自動的に支給されるのに比べ,より住民の関心を惹きやすい面もあり,仮にその金額が不当であれば,住民が議員に働きかけたり,あるいは事後の議員選挙においてその点が争点となる可能性もあるから,議会の議決によることが,条例による決定に比較して,住民によるコントロールの観点から直ちに劣るものと断定することはできず,控訴人らの上記主張は採用できないとする。

3 執行機関と議決機関の抑制・均衡に関する主張について
  申立人らは,法204条3項及び204条の2は,少なくとも知事の場合には,議会と対抗関係にある知事の給与等がその都度の議会の議決によって決せられることはないことを定めることによって,執行機関と議決機関との抑制と均衡関係を図るという統治的意義をも有するものであり,本件条例15条はこれに反する旨主張した。これに対して,原判決は,本件条例15条により議会が議決によって知事に対する退職手当の額を定める場合と,その額の算定方式を条例で定める場合とを比較しても,前者が後者に比して,議会の権限が過大となり,知事と議会との抑制・均衡関係が崩れるとまでいうことはできないから,この主張も理由がないとする。ただし,この点については特に根拠,理由は示されていない。
  また,申立人らは,本件条例によれば,議会は自由に知事の退職手当の金額を定めることができることになり,議会に対する知事の対応に影響を与え,知事と議会との抑制・均衡関係を崩すものである旨主張したことに対して,原判決は,本件退職手当の額は,有識者らによる富山県特別職退職手当検討懇話会において,中沖の知事としての功績,昨今の経済状況,知事の退職手当の額の算定に関する全国的な状況や富山県における従前の知事の退職手当の額の算定方法等も勘案した意見がまとめられ,これを受けて議会により議決され,このような諸条件を考慮しないまま金額を定めたというようなものではないことを考慮すれば,議会が本件退職手当の金額を議決により定めることができるからといって,直ちに,知事の立場が弱体化して,知事と議会との抑制・均衡関係を崩すことになるとまでいうことはできないとして,申立人らのこの主張も採用できないとした。

第3 上告受理申立理由
  原判決は,以下のとおり,法204条3項及び204条の2の解釈に関する重要な事項についての判断を誤っている。
1 法204条3項及び204条の2違反の点について
  原判決が,特別職に対する退職手当の額の決定方法を明示していること及び議会が条例を制定する場合と議決事項とした場合の議決方法との間には特段の相違がないことから,両者が実質的には等しいとして,議決による方法は,法204条3項及び204条の2の規定の趣旨をみたし,本件条例15条が,知事の退職手当の額を直接定めることなく,議会の議決により定めることができるとする部分について,この判断は,法204条3項の明文に反し,また,同条が住民自治と団体自治を制度的に保障している憲法92条及びその趣旨をふまえて間接民主制の制度とともに直接民主制の制度をも取り入れて規定している地方自治法の趣旨から,許されない解釈である。
  このことは,甲2号証の晴山意見書に,立法経過,行政実例,学説及び判例をふまえて示されているとおりである。

2 住民による民主的統制に関する差違について
  さらに,原判決の,住民による民主的統制の観点からの申立人らの主張に関する判断は,以下の通り,不合理・非論理的であるとともに,憲法92条及びその趣旨をふまえて間接民主制の制度とともに直接民主制の制度をも取り入れて規定している地方自治法全体の整合的な解釈から許されない解釈である。
(1)条例改廃請求権による内容修正の可能性についての判断の誤り
  原判決は,条例改廃請求権による内容修正の可能性に関する差違は,議決による場合でも,議員が選挙によって選出された住民の代表者であるから,民主的なコントロールのもとで退職手当の額を決定しているものといえるので,この差異をもって,条例により定める場合の方が,より民主的なコントロールが及ぶものとまではいいきれないから,このような相違をもって,本件条例15条が前記給与条例主義の趣旨①を没却するものということはできないとする。
  しかし,確かに議員が議決で決める場合も民主的なコントロールのもとでの決定であると言うことはできるが,条例改廃請求の制度は,住民が直接条例について改廃を請求するという影響力を行使することが法的に保障されている制度であるから,これが認められる場合と認められない場合では住民の地方自治に対する影響力という点で決定的な差違があり,この差違は憲法92条に規定する「地方自治の本旨」をふまえ,直接民主制と間接民主制の両制度を取り入れている地方自治法の解釈において無視することは許されない。また,原判決は「より民主的なコントロールが及ぶ」という観点で判断しているが,異なる制度である直接民主制と間接民主制を比較して,「より民主的」であるか否かを論ずることはできず,このような考慮は失当であり,無意味である。むしろ,原判決の判断とは逆に,地方自治法が住民に保障している権利である条例改廃請求権の対象となるか,ならないか,という差違の重要性,意義を考慮して判断されなければならないのである。原判決のこの点についての判断は不合理・非論理的であり,誤っている。
  なお,原判決は,本件条例に対して条例改廃請求を行うことが可能であったとし,住民の条例改廃請求権の行使等を重視しても申立人らの主張は理由がないとしている。しかし,本件条例に対する条例改廃請求の可否の問題は,知事の退職金額を決定することに対して住民が条例改廃請求権を行使して変更を求めることが出来るか否かという差違とは全く関係がないことがらである。原判決のこの判断は非論理的であり,失当であるというほかない。
(2)選挙の争点化による内容修正の可能性についての判断の誤り
  原判決のこの点に関する判断のうち,本件条例自体が住民の改廃請求の対象となることと本件の争点とは全く無関係であることは上記(1)のとおりである。
  次に,個々の退職手当の支給ごとに金額を議会で議決する場合が,予め条例で定められた金額が自動的に支給される場合に比べ,より住民の関心を惹きやすい面があるとする判断については,いずれの場合であれ,住民が関心を有するのは退職金額の多寡,業績や世間相場の比較における金額の相当性であるから,必ずしもそのようには言えず,失当である。
  そして,個々の退職手当の支給ごとに金額を議会で議決する場合でも金額が不当であれば,住民が議員に働きかけたり,あるいは事後の議員選挙においてその点が争点となる可能性もあるから,議会の議決によることが,条例による決定に比較して,住民によるコントロールの観点から直ちに劣るものと断定することはできないとの判断については,条例改廃請求権の対象である場合には法定の条件を備えれば当該条例が改廃される保障があるのに対して,議員に働きかけることは単なる要請に過ぎず内容が変更される保障は全くなく,事後の議員選挙においてその点が争点になっても,支給後であれば無意味であるから,条例改廃請求権の対象となる場合に比べて,住民によるコントロールの観点から格段の差が認められ,これを直ちに劣るものと断定することができないとする原判決の判断は不合理・非論理的である。

3 執行機関と議決機関の抑制・均衡に関する判断の誤り
  まず,議会が議決によって額を定める場合と,その額の算定方式を条例で定める場合とを比較しても,前者が後者に比して,議会の権限が過大となり,知事と議会との抑制・均衡関係が崩れるとまでいうことはできないとする判断については,そもそも根拠,理由が示されていない。しかし,額の算定方式が定められている場合には,知事は退任前に支給額を知ることが出来,これを知りつつ知事に就任した場合には,退職金額は知事と議会の力関係に何の影響も与えないことは明らかであるが,知事の就任中に退職金額が決められておらず,退任後に議会の議決で金額が定められる場合には,退職金を確保するために議会の意向を損ねがたいとの意思が知事に働くことは明らかであり,このことが知事と議会の抑制・均衡関係に重大な影響を与えると認められる。法204条3項及び204条の2は,そのような関係も念頭に置いて規定されていると見られる。仮にそのようなことが念頭に置かれていなくとも,現実にそのような影響を与えるものと認められ,このような重大な影響は知事と議会の抑制・均衡関係において許されるべきではないから,原判決のこの点についての判断は失当である。
  次に,本件において各種条件を考慮して金額が定められたことを考慮すれば,議会が本件退職手当の金額を議決により定めることができるからといって,直ちに,知事の立場が弱体化して,知事と議会との抑制・均衡関係を崩すことになるとまでいうことはできないとした判断について,本件では知事が退職した後に退職金額が決定されており,判決の指摘する各種条件は知事が退職した後に検討されており,知事が退職するまでの間は,全くこのような検討が行われておらず,将来行われる保障もなかった。したがって,知事の立場を弱体化しないとする根拠にはなり得ない。原判決のこの判断は,時間の先後関係を無視した非論理的な判断である。

4 以上の通り,申立人らの主張を退けた原判決の判断は,不合理・非論理的であり,憲法92条及びこれを受けて制定された地方自治法の趣旨と同法が有する各種制度体系に反するものであり,これを維持することは国民の司法に対する信頼を著しく裏切ることになるので,変更されなければ,著しく正義に反する。
  
by sumiyakist | 2007-06-22 19:07 | 知事退職金

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