控訴理由

 控訴状は明快に第1審判決の問題点を指摘しているから、特段解説することもないかも知れないが、いちおう要点をおさらいしておこう。

 第一の問題点は「給与条例主義」の解釈、その許容範囲の問題である。第1審判決では「(給与条例主義の)趣旨に直ちに反するものということはできない」とか、「給与条例主義の趣旨を没却するものではない」といった曖昧な言葉を連ねて、富山県の処分を容認しようとしているが、端的に言ってしまえば「議決と条例に本質的な差はない」ということを述べていることになる。司法自らがこういうことを言い出すとは驚くべきことである。

 これに対して、わが青島弁護士は憲法92条の「地方自治の本旨」を正面に立てて、判決を批判している。

「地方自治法が各種の直接民主主義的な制度を規定している趣旨からすれば、単に住民の代表者である議会の決定によることをもって民主的なコントロールとして足りると判断することは許されず、さらに、住民によるコントロールが及ぶか否かについても配慮することが求められる。」(控訴状)

 すなわち、憲法が「地方自治の本旨」といい、それを根拠とする地方自治法がさまざまな直接民主主義的制度(首長のリコールや議会解散請求、条例制定・改廃の直接請求、住民監査請求など)を規定している本質的な意味は、単に議会によるコントロールがあることをもって必要十分とするのではないことを意味している。その点からいって条例と議決には本質的な差がある。

 いまひとつの問題は、原判決の「知事と議会の統治的な関係に関する判断の誤り」である。中沖氏の場合には、いちおう過去の事例や他府県の事例、懇談会(といっても何の法的根拠にももとづかないが)の意見などを聞いて金額を決定しているが、それはなんの保証にならない。

 たとえば、長野県の田中前知事のことを考えてみれば分かる。長野県はちゃんと特別職の退職手当条例を定めていたから(原典を確認したわけではないが)、田中氏は5千万円あまりの退職金(第2期分)をめでたく(!)手にしたが、もし、富山県のような議決によって決定されるとしたらどうだろ。議会と徹底的に対立してでも政策をやり通す意気込みにいささかの躊躇が生じぬとは言い切れないだろう。すなわち、

「これを議会がゼロに近い金額にすることも自由である以上、知事にとっては極めて重大な影響があり、議会に対する知事の対応に影響を与えることは誰の目にも明らかである。」(同)といえるであろう。

 まして、原判決はこの論点については、何の根拠も示さずに、そんなことはあり得ないとしているのである。知事と圧倒的与党(独裁)議会との「なれあい」が常態化している富山県のことを念頭において判断したのであるなら、それもまた裁判官としては視野が狭い。

 以上のように、じつに明快かつ重厚な論旨をもって上級審に判断を仰ぐことになったのであるが、さて、どうなることか。
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by sumiyakist | 2006-09-08 21:27 | 知事退職金


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