控訴状

 ブログの更新を怠けているうちに、炎天の続いた夏も終わり、空には秋の雲が現れ時折涼しい風が木の下を通り過ぎる季節なった。

 前知事退職金返還裁判の控訴をしたことは書いたが、その控訴状をアップするのを忘れていた。打ち合わせをする時間もなく、青島弁護士にお任せになってしまったのであるが、さすがに氏は以下のように、原判決の問題点をするどく衝く控訴状を書いてくれた。

 舞台は名古屋高裁金沢支部に移るのであるが、われわれの住む小矢部市は石川県に隣接していて、富山市よりも金沢市の方が近いので、通うにはむしろ便利になる。
 以下に控訴状の主要部分を載せる。

 ちなみに、冒頭に出てくる憲法92条というのは、日本国憲法第8章「地方自治」の最初に置かれた「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」という条文である。



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  控訴の理由
 原判決は次のとおり法例解釈を誤り、また、憲法92条に反する判断を行っている。 なお、追ってさらに主張する予定である。
1 給与条例主義の解釈の誤り及び憲法92条違反
(1) 原判決の判断
  原判決は、地方自治法(以下「法」と言う。)204条3項、204条の2が、普通地方公共団体の職員に対する給料等の額及び支給方法は、条例でこれを定めなければならず、また、いかなる給与等も法律又はこれに基づく条例に基づかずに支給することができない旨規定することを給与条例主義とし、その趣旨は(1)職員に対して給与を権利として保障すること及び(2)給与の決定を住民の代表である議会の条例制定を通じて民主的にコントロールすることにあると解されるとしたうえで、富山県職員退職手当支給条例(以下「本件条例」と言う。)15条は知事らの退職手当の具体的な額の決定を議会の議決に一任しており、条例から具体的な額を確定することはできないとしているから、条例15条は議会が知事らの退職手当の額の決定について直接コントロールを及ぼすものであること及び条例を制定する場合の議決方法と条例で議会の議決事項とした場合の議決方法に区別がないことから実質的には給与条例主義の趣旨に直ちに反するものと言うことはできないと判断した(原判決6頁以下)。
(2) 原判決の特徴
  しかし、晴山意見書が指摘し、原判決も一部認めているとおり(原判決7頁)、議会の議決による金額の決定と条例による決定を比較すると、単に法形上の違いがあるだけではない。住民の条例改廃請求(法74条)による内容の修正の余地があるか否か、金額の決定に至るまでに住民があらかじめ金額を知ることができるか否か、場合によっては選挙の争点となって選挙結果によって新議会による内容の修正が行われる可能性があるか否かの差異があり、住民によるコントロールが及ぶか否かという観点からは重要な違いがある。
  にもかかわらず、原判決は、議会の議員が住民の選挙により選出された住民の代表者であることから民主的なコントロールのもと金額を決定しているので議会の議決による場合よりも条例による場合の方が民主的なコントロールが及ぶとまでは言い切れないとし、結論として本件条例15条は給与条例主義の趣旨を没却するものではないとした(原判決7頁)。これが原判決の判断の特徴である。
(3) 原判決の判断の誤り及び憲法92条違反
  しかし、原判決のこの判断は、法204条3項及び204条の2の定める給与条例主義の原則を、住民の代表者である議会によるコントロールと狭く解する点で誤っている。
  すなわち、地方自治法が各種の直接民主主義的な制度を規定している趣旨からすれば、単に住民の代表者である議会の決定によることをもって民主的なコントロールとして足りると判断することは許されず、さらに、住民によるコントロールが及ぶか否かについても配慮することが求められる。
  したがって、上記(2)第1段で指摘した住民のコントロールに関する差異は重大であり、本件条例15条は、法204条3項に反しており、また、本件退職手当の支給は「法律又はこれに基づく条例」に基づいた支給とは言えず法204条の2にも反しているから、給与条例主義にも反している。
  地方自治法全体の趣旨に配慮せず、単に議決方法が同じであるというだけで実質的に給与条例主義の趣旨に直ちに反するもと言えないとした原判決の判断は、法204条3項、204条の2の解釈を誤るとともに、地方自治の特質に対する配慮を欠くことにより地方自治の本旨にも反する解釈でもあり、憲法92条にも違反する。

2 知事と議会の統治的な関係に関する判断の誤り
(1) 原判決の判断
  原判決は、本件条例15条により議会が議決によって知事に対する退職手当の額を定める場合と、その額の算定法式を議会の議決により条例で定める場合とを比較して前者が後者に比して議会の議決が過大となり、知事と議会の抑制・均衡関係が崩れるとまでいうことはできないと判断する(原判決10頁)。
(2) 原判決の判断の誤り
  原判決のこの判断には理由が示されていないが、本件条例では知事等の退職手当の金額に関してなんの基準も示されていないから、議会はその金額を自らの判断で自由に定めることができることになる。議会は、金額を極小にも極大にも定めることができるのである。
  全国の他の自治体の例では在職中の給与に匹敵する金額の退職手当が支給されているのであるから、これを議会がゼロに近い金額にすることも自由である以上、知事にとっては極めて重大な影響があり、議会に対する知事の対応に影響を与えることは誰の目にも明らかである。
  これを、知事と議会の抑制・均衡関係が崩れるとまでいうことはできないとする原判決の判断は、理由が示されていなくても誤っていることに特段の指摘も不要である。
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by sumiyakist | 2006-09-06 13:10 | 知事退職金


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