裁判とボクシング

「請求棄却」の判決が出ることはある程度は「想定内」だった。行政相手の訴訟で、大は自衛隊違憲訴訟から小は談合裁判まで、行政の肩をもつ判決が圧倒的多数なのは周知のことである。いくらか勝つ可能性が高いのはセクハラ裁判くらいだろう(裁判まで持ってゆくのがたいへんだが)。だから前知事退職金返還訴訟においても、われわれの勝つことは難しいかもしれないと思っていたし、内部でもそういう話が出ていた。

 とはいえ裁判というのは、いわば「上手な理屈のつけ合い」だから、裁判所がどういう理屈で前知事退職金支払いを合理化してくるかを注目していた。純粋に法律論だけで考えれば、「晴山意見書」にいうとおり、どう考えてもわれわれの主張に理がある。

 従って、主要な争点である富山県退職条例の15条が地方自治法の給与条例主義にかなうかどうかに関しては、さらっと逃げて、「条例を整備していないということで法的には瑕疵があるけれども、実体としては、当時としては<世間並み>の金額であるし、もし条例が整っていたとしてもその支給額と差があるとは考えられない。」「すなわち、県に対して、とりわけ過大な負担を与えたわけではない。」というような実体論でわれわれの主張を退けてくるのではないかと、いう意見が有力だった。

 しかし、今回の判決はわれわれの予想をまわるひどいものであった。つまり、条例なしに議会の議決で決めても給与条例主義にかなっている、というのである。この開き直りには、いささか面食らったのは事実である。

 判決のあった夜、折しもプロボクシングWBA世界ライトフライ級王座決定戦で亀田興毅とファン・ランダエタが闘った。どう見ても亀田の負け試合だが、判定は亀田の勝ち。富山地裁といい勝負だ(笑)。

 判決文の主要部を下に転載しておく。(ただし、OCRソフトによって読み取ったものを急いで校正しただけなのでまだ誤植があるやもしれない。また、句点は「。」が正しいが、ここでは「.」のままである。)



判決主要部
第3 当裁判所の判断

1 本件退職手当支給の違法性(本件条例15条が給与条例主義に違反するか否か。)について(争点1)
 (1)法204条3項,204条の2は,普通地方公共団体の職員に対する給料,手当及び旅費の額並びにその支給方法は,条例でこれを定めなければならず,また,いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく条例に基づかずに支給することができない旨規定する(給与条例主義).この給与条例主義が 原則とされている趣旨は.①職員に対して給与を権利として保障すること,②給与の決定を住民の代表である議会の条例制定を通じて民主的にコントロールすることにあると解される.
  そして,本件条例では,2条1項において,富山県職員(地方公営企業法(昭和27年法律第292号)15条1項に規定する企業職員を除く.)のうち,常時勤務に服することを要する者に退職手当を支給する旨規定し,特別職の退職手当の額について,15条において,「知事,副知事及び出納長の在職期間に対する退職手当の額は,この条例の規定にかかわらず,議会で議決する額とすることができる・」と規定している(乙1)ところ,これによれば,その具体的な額の決定を議会の議決に一任しており,条例から具体的な頼を確定することはできないといわざるを得ない.
  しかしながら,給与条例主義の趣旨は,上記のとおりであり,本件条例15条は,議会がその議決により知事に対する退職手当の額を定めることによつて,その額の決定について,直接議会のコントロールを及ばすものであり,しかも,議会が条例を制定する場合の議決方法と条例で議会の議決事項とした場合の議決方法に区別がないことからすれば,実質的には給与条例主義の上記趣旨に直ちに反するものということはできない.
  もっとも,条例については,条例が公布されることにより,退職手当の額が住民に了知され得る状態に置かれ住民の条例改廃請求(法74条)により,その内容を修正する余地があるのに対し,議会の議決による場合には,議案が議会に提出される前の段階でその議案の内容(退職手当の額)を住民が了知することはできないことになる。しかし,議会の議員は住民の選挙により選出された住民の代表者であることからすれば,民主的なコントロールのもとで退職手当の額を決定しているものといえるのであって,上記差異をもって,条例により定める場合の方が,議会の議決による場合より民主的なコントロールが及ぶものとまではいいきれない.したがって,本件条例15条は給与条例主義の趣旨を没却するものではない.
(2)次に,本件退職手当の頼を決定した手続,その内容等について検討する.
 ア 証拠(乙2の1ないし3,乙3)によれば,以下の事実が認められる。
 (ア) 本件退職手当の支給当時,知事に対する退職手当の額については,富山県を除く46都道府県においては,知事等の特別職に対する退職手当支給条例を制定し,もしくは職員に対する退職手当支給条例の中で特別職に対する規定を設けて,その算定方式を規定していたところ,その算定方式は,一般的に退職時の給料月額に在職月数及び支給割合を乗じるというものであって,その支給割合については,各蔀道府県によって,60%から80%までの数値が設定されその全国平均は,71.6%であった・また・知事に対する退職手当の支給時期については,41都道府県が任期毎に,富山県を含む6県が最終退職時に,それぞれ支給するものとしていた.
 (イ) 宮山県は,中沖に対する本件退職手当の支給について,有識者らによる富山県特別職退職手当検討懇話会(座長,南義弘・富山県商工会譲所連合会副会長)を設置して,検討したところ,同懇話会では,中沖の知事としての功績や昨今の経済状況等のほか,知事の退職手当の額の算定に関する上記のような全団的な状況や宮山県における従前の知事の退職手当の額の算定方法等も勘案して,本件退職手当の額は,各任期毎に,各任期満了時の給料月額に在職月数及び支給割合を乗じて,それぞれ退職手当の額を算定し,これを合計した額とすること,支給割合については,全国平均を下回る70%とすることなどとする意見がまとめられた.
  中沖に対する本件退職手当の額は,上記意見に従って計算すると,下記計算式のとおり,2億3486万4000円となり,これを(十万円の位で)四捨五入すると2億3500万円となる.
(計算式)(87万円×48月×70%)+(105万円×48月×70%)+(117万円×48×70%)+I(130万円×48月×70%)・×3期1=2億3486万4000円
(ウ) 富山県議会は,上記富山県特別職退職手当検討懇話会の意見を受けて,平成16年12月16日の本会議において,本件退職手当の額を2億3500万円とする旨議決した.
イ 上記認定事実によれば,本件退職手当の額は,知事に対する退職手当の額の算定に関する全国的な状況等もふまえて決定されたものであって,その額の算定については,任期毎に各任期満了時の給料月額を基礎に算定したものの合計額とする(支給割合を70%とした場合,退職時の給料月額を基磋として井定するより約2700方円低額になる.)ほか,支給割合については,全国平均を下回る数値を採用するなど,昨今の経済状況等をもある程度考慮した額であるということができ,これをもって社会通念上許容し得る限度を超えて著しく不当に高額であるとは,にわかに断定することはできない. 

           
(3)以上によれば,本件退職手当は,条例自体により具体的な額が定められたものとはいえないが,本件条例15条により「議会で議決する額」と定めており,給与条例主義の趣旨を没却するものではなく,かつ,本件退職手当の額を決定した手続,その内容等に鑑みても,社会通念上許容し得る限度を超えて著しく不当に高額とまではいえないから,結局,本件退職手当の支給が違法であるということはできない.
(4)原告らは,給与条例主義の趣旨は,議会による民主的統制のみではなく,条例改廃請求権の行使等による住民の自治体に対する民主的統制をも確保するところにあるとして,本件条例15条は給与条例主義に反する旨主張するけれども,住民の条例改廃請求の可否の差異をもって,給与条例主義の趣旨を没却するものでないことは前記のとおりであるし,仮に,原告らが主張するとおり,住民の条例改廃請求権の行使等を重視するとしても,住民は,議会の議決する額とすることができるという本件条例に対しても,条例改廃請求を行うなどしてその意思を反映させることができたものというべきである.
  したがって,原告らの上記主張は理由がない.
(5)また,原告らは,給与条例主義は,少なくとも知事の場合には,議会と対抗関係にある知事の給与等がその都度の議会の議決によって決せられることはないことを定めることによって,執行機関と議決機関との抑制・均衡関係を図るという統治的意義を有するものであり,本件条例15条は給与条例主義に反する旨主張するけれども,本件条例15条により議会が議決によって知事に対する退職手当の額を定める場合と,その額の算定方式をやはり議会の議決により条例で定める場合とを比較しても,前者が後者に比して,議会の権限が過大となり,知事と議会との抑制・均衡関係が崩れるとまでいうことはできない.
  したがって,原告らの上記主張も理由がない.
2 結論
 よって,その余の争点については判断するまでもなく,原告らの請求は理由がないからいずれも棄却し,訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する.
 
宮山地方裁判所民事部
      裁判長裁判官  佐  藤  真  弘
         裁判官  剱  持  淳  子
         裁判官  高  浪  晶  子








                        
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by sumiyakist | 2006-08-03 21:49 | 知事退職金


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