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100000年後の安全

映画『100,000年後の安全』


 「100000年後の安全」という映画を観た。

 フィンランドで目下進行中の、使用済み核燃料を最終処分(地層処理)するための施設建設のドキュメンタリーである。岩盤をくりぬいて地下500メートルへの坑道を掘り進む工事現場(主に発破作業)と、プロジェクトの頭脳とも言うべきスタッフや研究者へのインタビューなどを交互に織り交ぜながら進行する。

 使用済み核燃料から排出される高レベル放射性廃棄物の最終処分にかんしては、アメリカ、フランスはもちろん、わが国でも実際的に取り組むことができないままで、中間貯蔵(あるいは、発電所内での一時貯蔵)の使用済み燃料が溜まり続けている。最終処分を行うものとしては、このフィンランドの施設が世界で最初のものであるという。(2020年から稼働して2100年に終了=満杯、といっていたと思う)。

 そもそもフィンランドは電力の3割近くを原発に頼る、原発推進国である。3・11以前のわが国と同じということになる。自国内でウラン燃料をほとんどまかなえるというメリットもあるから、今後も原発への依存は続くことだろう。普通に考えれば、原発を動かしている限り核廃棄物は出るのだからその処分を措置するのは当たり前のことである。フィンランドは当たり前のことを当たり前のようにやっているにすぎない。

 顧みてわが国の原子力政策が「トイレなきマンション」といわれるごとく、高レベル放射性廃棄物の最終的な処理方法も場所も決めないまま、「そのうち何とかなるだろう」的楽観主義(というより無責任な先送り主義だろう)でどんどん原発を造って運転してきたことが異常だといわねばならない。(最近では国内での処分を諦めて、アメリカと一緒になってモンゴルでの処分を考えたりしているようだ。言語道断である)。

 それにしてもフィンランドが、どうして世界初の処分場を建設することができたのだろうか。もちろん、何億年も安定的に持続している強固な地質(岩盤)や、地震の心配がないことなどにもよるだろうが、私は、この国の、社会的公正さや行政の透明性、国民の政治意識の高さといったの民主主義の成熟が根底にあるのではないかと推測する。(OECDの国際学力調査=PISAにおいて、フィンランドは常に1〜3位のトップクラスを維持していることとも関連するかもしれない。)自分たちが作り出したゴミだから自分たちで処分するのは当たり前、そういう生真面目さ、まっとうさが社会にビルトインされているのだろう。そのことはいくら評価してもしすぎることはない。

 さて、その最終処分「100000年後の安全」である。何億年も安定的に持続してきた500メートルの地下とはいえ、100年200年ではない。いや1000年ならば理解できるだろう。1万年前なら縄文時代、これも何とか想像が及ぶ。しかし、「10万年」となると想像力の彼方である。さかのぼればネアンデルタール人などの旧人の時代である。歴史的時間を越えた地質年代的時間というべきか。人類史をもう一度やり直すほどの悠久の時間である。その期間を「この下に危険物あり」という情報をどのようにして伝承する保証を得るのか? 言語=文字の有効的な伝承可能時間はどの程度なのか? 10万年後の「人類的存在」(がいたとして)とコミュニケイトするのは、宇宙人と意思疎通するより困難なのではないか。

 映画の中でもそれが重要なテーマとして関係者を悩ませている様子が示されている。「いまこうして岩盤を掘っていて、10万年前の(別の滅びてしまった「人類」が埋めた)埋蔵処理物を掘り出してしまうんじゃないかと心配だ」といった冗談が語られる場面がある。冗談と笑えないところが、まさにブラックユーモア的構造である。

 フィンランドは先に述べたように最も近代的な民主主義国家のひとつであろう。(私は、アメリカ民主主義やイギリスのそれよりも、北欧において最も進んだ近代的な民主主義社会が実現されていると考える。そのひとつであるノルウェイで先頃のようなすさまじいテロ事件が起きるというのは深刻なテーマであるが、いまはそれに立ち入らない)。

 であればこそ、自分たちの出したゴミは自分たちで処分すべきだと、近代人(思想)として最も正当な近代的方法でこの処分場=オンカロを建設した。しかし、そのタイムスパンたるや「10万年!」。近代思想、その現実態のひとつたる近代科学技術、は、人類史的タイムスパンにまで関与する「資格」があるのだろうか? もう一つの人類史が始まるほどの時間をわがものとして使う権利があるのだろうか? 

 原発を動かすということは、現在地球上に住む人間、自分の子や孫、あるいは数世代あとの人間に対して責任を負うというだけでなく、そういう人類史的な問いに正面から答えなければならないことでもある。
 
by sumiyakist | 2011-07-31 22:39 | その他

山で暮らしながら下界に関わる日々


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